BASIC GUIDE / OVERHAUL

腕時計オーバーホール完全ガイド|タイミング・頻度・費用・出すべきサイン

「オーバーホールって本当に必要?」「いつ・どのタイミングで出せばいいの?」「いくらくらいかかるの?」
高級時計を持っている方であれば、一度はこんな疑問を持ったことがあるはずです。

このページでは、腕時計のオーバーホールについて、タイミング・頻度・費用の目安・出すべきサイン・よくある失敗までを一つの記事に集約しました。
機械式・クオーツ・クロノグラフ・ダイバーズなど、時計の種類ごとの違いも含めて解説していきます。

この記事で分かること

  • そもそも「オーバーホール」とは何をする作業なのか
  • メーカー推奨と、現場目線での「現実的な」オーバーホール頻度
  • 「まだ大丈夫」と放置してはいけない危険なサイン
  • 機械式/クオーツ/クロノグラフなど種類別の考え方の違い
  • 正規サービス・民間修理それぞれのメリット/デメリット
  • オーバーホール費用が高くなる/安くなる主な理由
  • よくある失敗パターンと、後悔しないためのチェックポイント

1. オーバーホールとは?【3行でわかる概要】

オーバーホール(分解掃除)とは、時計のムーブメントを一度すべて分解し、洗浄・注油・調整を行うフルメンテナンスのことです。

車でいえば「エンジンを下ろしてフル整備する」イメージに近く、日常的な電池交換やベルト調整とはまったく別物の作業になります。

目的は大きく分けて3つです。

  • 精度を回復・安定させること(遅れ・進み・止まりの改善)
  • 内部の摩耗や劣化を防ぎ、故障リスクを下げること
  • 防水性能など、本来のスペックを維持すること

「オーバーホール=壊れた時計を直すためのもの」と思われがちですが、どちらかというと
「壊れる前に寿命を延ばすための、健康診断+大掃除」と考えていただくと分かりやすいです。

2. オーバーホールの全体像|6ステップのフロー

ここでは、一般的なオーバーホールの流れを6つのステップに分けてご紹介します。
実際の工房によって細かな違いはありますが、大きな流れはほぼ共通しています。

STEP1:受付・ヒアリング

まずは時計をお預かりし、

  • ブランド・モデル・ムーブメントの種類
  • 購入時期・前回メンテナンス時期
  • 現在気になっている症状(遅れ・進み・止まり・リューズの違和感など)
  • 使用環境(水場での使用頻度・スポーツでの使用など)

といった情報をヒアリングします。

STEP2:分解前の診断・見積もり

裏蓋を開ける前に、

  • 現状の精度測定(日差・姿勢差など)
  • 磁気の影響有無のチェック
  • 外装・ガラス・リューズ・プッシャーなどの状態確認

を行い、「現時点で分かる範囲」の見積もりを提示します。
この段階では、あくまで概算・ベース料金になることが多く、分解後に追加の部品交換が必要になる場合もあります。

STEP3:分解・洗浄

ムーブメントをパーツごとに分解し、専用の洗浄機・洗浄液を使って古い油や汚れを落としていきます。

分解の過程で、

  • 摩耗が進んでいる歯車や軸
  • サビが出始めているパーツ
  • 破損している部品

などが見つかることも多く、その場合は部品交換の提案が行われます。

STEP4:注油・組み立て

洗浄して綺麗になったパーツを、適切な種類・量のオイルを使いながら組み上げていきます。
オイルの種類と量はムーブメントの設計により細かく指定されており、ここが精度と寿命を大きく左右するポイントです。

STEP5:調整・各種テスト

組み立てが完了したら、

  • 精度測定(日差・姿勢差の調整)
  • パワーリザーブ(持続時間)の確認
  • 自動巻き・手巻きの巻き上げ効率チェック
  • 防水テスト(防水モデルの場合)

などを行い、規定値の範囲に入っているかを確認します。
必要に応じて何度も微調整を繰り返しながら、安定した状態に仕上げていきます。

STEP6:最終検査・返却

数日にわたり動作の安定性をチェックしたのち、最終検査を経てお客様のもとへお返しします。
この際に、

  • 実施した作業内容
  • 交換した部品
  • 今後のメンテナンスの目安

などを説明する修理報告書が付くことも多く、次回以降のメンテナンス計画を立てやすくなります。

3. オーバーホールのタイミングと「出すべきサイン」

「何年ごとに出せばいいのか」も大事ですが、実務的には時計が出しているサインの方が重要です。
ここでは、よくあるサインと危険度を整理しておきます。

3-1. 「年数」で見る目安

  • 毎日使う機械式時計:5〜7年に一度を目安に
  • クオーツ時計:電池交換2〜3回に一度(=6〜10年程度)
  • ダイバーズ・高防水モデル:防水チェックを兼ねてやや早め(3〜5年)

これはあくまで「壊れていなくても、このくらいで一度中を見てあげると安心」という目安です。

3-2. 「症状」で見るサイン

次のような症状が出てきたら、年数に関係なく一度相談することをおすすめします。

  • 日差が大きくなった(機械式で ±20〜30秒/日を超えてきた)
  • 急に止まる・動いたり止まったりを繰り返す
  • リューズの巻き心地が重い/軽すぎる/引いたときの感触がおかしい
  • ガラスの内側がくもる・水滴がつく
  • 裏蓋やリューズ周りにサビが見える

3-3. 「絶対に放置してはいけない」危険サイン

以下はできるだけ早く対応したいサインです。

  • 明らかな水入り(ガラス内側の水滴・常にくもっている)
  • 落下・強い衝撃の後から発生した止まり・異音
  • 裏蓋を開けたら内部にサビが見えた(過去の電池液漏れ含む)

こうした状態で無理に使い続けると、ムーブメント全体の交換が必要になるレベルまでダメージが広がることも少なくありません。
「もしかして…?」と思った時点で、一度プロに状態を見てもらうのが結果的に安く済むケースが多いです。

4. 種類別:機械式・クオーツ・クロノグラフで頻度はどう変わる?

オーバーホールの「適切な頻度」は、時計の種類によって変わります。
ここでは代表的なタイプごとに、考え方の違いを整理します。

4-1. 機械式腕時計の場合

ゼンマイと歯車で動く機械式は、内部のオイルが徐々に劣化・蒸発していく構造です。
オイルが切れた状態で使い続けると、金属同士が直接こすれ合い、摩耗や破損の原因になります。

  • 毎日使う:5〜7年ごとを目安に
  • たまに使う:7〜10年程度で一度は点検

4-2. クオーツ腕時計の場合

「電池だけ換えていればOK」と思われがちですが、クオーツも内部の歯車や油は存在します。

  • 電池交換だけを繰り返すと、知らないうちに油切れが進行
  • 古い電池を入れっぱなしにすると、液漏れでムーブメント破損のリスク
  • 高級クオーツ(高防水・高精度キャリバー)は、機械式並みにメンテナンスが大事

目安としては、電池交換2〜3回に一度(6〜10年)はオーバーホールや点検を検討したいところです。

4-3. クロノグラフ・複雑機構の場合

ストップウォッチ機能付きのクロノグラフや、GMT・パワーリザーブ表示など複雑機構を備えた時計は、
構造が複雑なぶん負荷がかかりやすく、メンテナンス難易度も高めです。

  • クロノグラフのスタート・ストップ・リセットを頻繁に使う
  • ボタン周りからの水入りやサビが起こりやすい

このタイプは、機械式の中でもやや早めのサイクル(4〜6年程度)でのメンテナンスを意識すると安心です。

5. オーバーホールの費用相場と、金額が変わる4つの要因

次に、多くの方が気にされる費用の目安と、金額が上下する要因を整理します。
ここでは詳しい価格表ではなく、「なぜそのくらいの金額になるのか」に焦点を当てます。

5-1. ざっくりした費用レンジのイメージ

一般的なイメージとしては、次のようなレンジになることが多いです。

  • 国産ミドルレンジの3針:比較的抑えめのレンジ
  • 高級ブランドの3針:中〜やや高めのレンジ
  • クロノグラフ・複雑機構:3針より一段高いレンジ

同じブランドでも、ムーブメントの種類や防水性能、部品点数によっても費用は変わります。

5-2. 費用が変わる4つの主な要因

  1. ムーブメントの複雑さ(3針か、クロノか、複雑機構か)
  2. ブランドポジション(国産ミドルレンジ/高級/超高級)
  3. 作業範囲(ムーブメントのみか、外装仕上げも含めるか)
  4. 部品交換の有無と点数

5-3. 見積もりを見るときのチェックポイント

見積もりを受け取ったら、次の点を確認してみてください。

  • 「基本オーバーホール料金」と「部品交換」が分かれて記載されているか
  • どの部品交換が必須で、どれが任意なのかが説明されているか
  • 追加費用が発生しうるケースと、その場合の連絡方法が明示されているか

金額だけでなく、内容と費用のバランスを見ることが大切です。
「安いからここにする」「高いから安心そう」といった単純な判断は、後悔につながることもあります。

6. 正規サービス vs 民間修理|どちらを選ぶべきか

オーバーホールを検討するとき、多くの方が迷われるのが「正規のサービスセンターに出すか、信頼できる民間修理に出すか」という選択です。

6-1. 正規サービスセンターの特徴

  • メーカー純正パーツ・メーカー基準の工程で安心感が高い
  • 記録が正規の履歴として残る(リセール時にプラス要素になることも)
  • 保証期間が比較的長めに設定されている
  • その代わり、費用は高め・納期も長くなりやすい

6-2. 民間修理工房の特徴

  • 費用を抑えやすく、柔軟な相談ができることが多い
  • 外装仕上げのニュアンスなど、個別の要望を聞いてもらいやすい
  • アンティークや正規サポート外のモデルに強い工房もある
  • 技術レベル・方針は工房による差が大きい

6-3. 選び方のシンプルな軸

迷ったときは、次の軸で考えてみてください。

  • 保証・記録・正規性を最優先 → 正規サービス寄り
  • 費用・納期・柔軟な相談を重視 → 信頼できる民間修理も検討
  • アンティークや改造歴あり → 経験豊富な工房に個別相談

7. よくある失敗・NG行動集

最後に、現場でよく見かける「やってしまいがちなNG行動」をまとめます。
このあたりを避けるだけでも、時計の寿命はぐっと伸ばせます。

7-1. 電池切れをそのまま放置する

クオーツ時計で多いのが、「止まっているのは分かっているけれど、そのまま数年放置してしまう」ケースです。
古い電池を入れっぱなしにすると、液漏れによってムーブメント全体がダメになることも珍しくありません。

7-2. 水入り・くもりを様子見してしまう

「ガラスが少し曇っているけど、そのうち消えるかな…」と様子見してしまうのも危険です。
一時的に乾いても、内部ではサビが進行している可能性があります。

7-3. 自己流で開けてしまう

YouTubeなどを参考に、ご自身で裏蓋を開けてしまうのも、正直おすすめできません。
パッキンの噛み込み不良・ホコリ混入・防水性能低下など、あとから取り返しのつかないトラブルにつながることがあります。

7-4. 「とにかく一番安いところ」を探す

価格比較自体は悪いことではありませんが、内容を見ずに「一番安いところ」だけで選ぶのはリスクがあります。
必要な工程が省かれていたり、短期的には動いても再発しやすいケースもあるため、
作業内容と保証の有無も含めて判断することが重要です。

8. ケース別:あなたは今すぐ出すべき?3タイプ診断

最後に、「自分の時計は今すぐオーバーホールに出すべきか?」をざっくり判断するためのケース別チェックを用意しました。

タイプA:今すぐ相談した方がいい人

  • 水入り・くもり・サビの疑いがある
  • 落下や強い衝撃のあとから動作がおかしい
  • 10年以上一度もオーバーホールしていない

タイプB:半年〜1年以内に検討したい人

  • 最後のオーバーホールから5〜7年が経過している
  • 日差が目立ち始めたが、まだ致命的ではない
  • 防水モデルを水場でよく使っているが、防水チェックを長年していない

タイプC:情報収集フェーズの人

  • 購入して数年以内で、特に不具合は出ていない
  • 将来の売却も視野に入れて、メンテナンスの履歴を整えておきたい
  • 「正規と民間、どちらを軸に付き合っていくか」を考えたい

タイプCの方は、まだ「今すぐ」という状態ではないかもしれませんが、今のうちから情報を整理しておくと、いざというときに慌てずに済むはずです。

9. オーバーホールに関するよくある質問(FAQ)

Q1. オーバーホールをしないとどうなりますか?

すぐに壊れるわけではありませんが、内部の摩耗・サビ・油切れが少しずつ進行していきます。
結果として、本来なら交換しなくて済んだパーツまで交換が必要になるなど、トータルコストが上がることが多いです。

Q2. メーカー推奨の年数より、少し遅れても大丈夫ですか?

現実的には、多少前後することはよくあります。
ただし、症状(遅れ・止まり・水入りの兆候など)が出ているのに放置するのは危険です。
年数よりも、「時計が出しているサイン」を優先して判断するのがおすすめです。

Q3. 一度オーバーホールに出したら、次も同じところに出した方が良いですか?

可能であれば、前回の履歴を把握している工房に継続して依頼する方がスムーズです。
ただし、引っ越しや方針変更などで工房を変えたい場合は、過去の修理報告書や交換履歴を手元に残しておくと、新しい工房でも判断しやすくなります。

Q4. オーバーホールと一緒に、外装の研磨(ポリッシュ)もやるべきですか?

小傷が気になる方にはおすすめですが、毎回必ずやる必要はありません
研磨を重ねると、ケースのエッジが丸くなっていくため、
「深い傷がついたタイミングで一度」「数回に一度だけ」といったペースをおすすめすることが多いです。

Q5. 見積もりだけ出してもらって、キャンセルしても大丈夫ですか?

多くの工房では、見積もりのみでキャンセルすることも可能です(返送料や診断料がかかる場合もあります)。
ただし、キャンセル条件(費用・タイミング)は各社で異なるため、事前に必ず確認しておきましょう。

Q6. 正規と民間で迷っています。両方に見積もりを出してもいいですか?

もちろん問題ありません。むしろ、内容と金額を比較したうえで納得して選ぶことはとても大切です。
その際、単に金額だけでなく、「何をどこまでやってくれるのか」「保証・アフターサポートはどうか」も合わせて比較することをおすすめします。

11. まとめ|あなたの時計に合ったメンテナンスを相談する

オーバーホールは、「何年ごとに出すべきか」という単純な話ではなく、
時計の種類・使用環境・これまでの履歴・今出ているサインの組み合わせで考える必要があります。

同じブランド・同じモデルでも、「毎日仕事で使っている1本」
「記念日にだけ使う1本」では、ベストなメンテナンスプランは違ってきます。

「今すぐ出した方がいいのかどうか」「正規と民間どちらが自分に合っているか」など、
もし迷われているようであれば、一度現在の状態を整理するところからご一緒させてください。

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